“入試問題、作者がらり一変”ってホント!?

「asami.com」に“入試問題、作者がらり一変 小説家に「世代交代」”と題された記事が掲載されている。

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY200704180129.html


>国語の入学試験によく出る作家といえば、かつての大学入試なら小林秀雄唐木順三、と言われたもの。だが、今年の出題を眺めてみれば、養老孟司茂木健一郎斎藤孝……と、ずいぶん様変わり。小説家の「世代交代」も進んでいる。

予備校講師や、入試問題の研究をキチンとやっている高校の先生方からすれば、「何を今さら」という印象の記事だろう。小林秀雄唐木順三なんて今年に限らず、もうとっくの昔に出なくなっている。また、早稲田大国際教養学部の入試で、綿矢りさの『蹴(け)りたい背中』が登場した事などを取りあげているが、僕としては、それほど注目するほど大きな動きとも思われない。

記事のタイトルが“作者がらり一変 小説家に「世代交代」”などと題されていることには違和感を感じる。この記事でもふれられているように、

>906学部を対象に代ゼミの集計がまとまっている昨年度の上位7人は、上田紀行(14件)、茂木健一郎(13件)、鷲田清一(11件)、山崎正和(8件)、夏目漱石(8件)、斎藤孝(7件)、正高信男(7件)。特に受験関係者から「困ったときの鷲田清一山崎正和」と言われるほど、この2人は入試問題での「流行作家」。6件組も、養老孟司内田樹山田昌弘らベストセラーリストそのままだ。

現在(ここ10年程の傾向も含め)の大学入試において小説の出題がさほど多いわけではない。最近2、3年は少しずつ小説復活の兆しも見えるにせよ「がらり一変」とか「世代交代」とか、述べるような動きが起こっているとは思われない。

むしろ、僕が着目しているのは、例えばここ数年上智大で夏目漱石の「草枕」「それから」「我が輩は猫である」が出題されるなどしている動きの方だ。上智は今年度は西田幾多郎の文章からの出題なども行なっており、明治から昭和初期の書き手への回帰が見られる。

それから僕がこの記事について気になった点。代々木ゼミナール国語編集部の土生(はぶ)昌彦さんの言葉として述べられているこのコメント↓。


>流行の新しい本を入試に採り入れる理由は、まずは「過去の問題とのだぶりを避けるため」と土生さん。新しい文章を探そうとすると、話題の作品やベストセラーを選びやすいようだ。「それに、新しい本にも関心や問題意識を持って読んでほしいという受験生への願望からでしょう」と見ている。

「新しい文章を探そうとすると、話題の作品やベストセラーを選びやすい」などということが本当であれば、入試出題者は不勉強であり怠惰である。過去に書かれた書籍や、ベストセラーになっていない作品にも新たな出題に値するものは充分あるだろう。

また、大学の先生は本当に受験生に対して「新しい本にも関心や問題意識を持って読んでほしい」などという願望を持っているのだろうか? 「問題意識を持って」という部分は一応納得できるが、「新しい本」ということがそれ程重要なのだろうか。たとえば、「現代の高校生は岩波文庫に収録された古典的名著ばかりを読んでいてケシカラン!」などと大学の先生はお考えなのだろうか。まさか…。

まあ、僕がこの部分が気になってしまうのは最近の新書ブームにあまりいい印象を持っていないせいもあるかもしれない。